研究
我々は,全国 52 機関の協力を得てBPDCN 118例の検体を収集し(世界最大規模),BPDCN において,MYC 異常(遺伝子再構成および発現異常)が高頻度(約40%)に見られ,かつ,それが細胞形態観察時に推測可能であること,薬剤感受性と関連することを明らかにしました.(Sakamoto K., Takeuchi K. et al. Leukemia. 2018 Dec;32(12):2590-2603.)
BPDCNの細胞形態
組織病理学的には,BPDCNの腫瘍細胞はクロマチン繊細で中等大の不整形核と少量から中等量の細胞質を持ち,核小体は不明瞭,または 1 つ~数個の小さな核小体が認められます.しかし我々は以前より,このような標準型の BPDCN(classic BPDCN)とは大きく異なり,類円形空胞状の核,好塩基性で中等量の細胞質と光輝性の大きな中心性核小体を 1 つ持つ,免疫芽球(immunoblast)に似た immunoblastoid cell を主体とする像を示す症例が存在することを認識しており,「免疫芽球様型 BPDCN」(immunoblastoid BPDCN)と名付けていました.2014年に我々は,8q24 領域(がん遺伝子 MYC の遺伝子座)の再構成を示し,MYC を発現するimmunoblastoid BPDCNの症例を経験しました.このことから,BPDCNの細胞形態と, 8q24 再構成および MYC 発現の間に,遺伝子型・表現型相関があるのではないかと考え,研究を開始しました.
細胞形態とMYC異常の関連
収集された症例のうち118 例を組織病理学的に BPDCN と確定しました.細胞形態を解析し,62 例(53%)を classic BPDCN,41 例(35%)を immunoblastoid BPDCN に分類しました.続いて,8q24 領域の再構成,MYC 発現について,FISH 法および MYC 免疫染色法を用いて,それぞれ解析しました.その結果,109 例が解析可能であり,41 例(38%)が MYC+BPDCN(両解析陽性),59 例(54%)がMYC–BPDCN(両解析陰性)に分類されました.驚くべきことに,解析可能なimmunoblastoid BPDCNの全例(39/39例)が MYC+BPDCNであり,classic BPDCNのほとんど(54/56, 96%)が MYC–BPDCN であると判明しました.すなわち,形態分類と MYC異常による分類の間に強い遺伝子型・表現型相関が見出されました(図 1).
MYC+BPDCNとMYC–BPDCNの臨床病理学的相違
臨床的情報の統計学的解析により,MYC+BPDCN 症例は MYC–BPDCN 症例に比し,発症年齢が高く,局所腫瘤性の皮膚病変が多く,生存期間が不良であることが示されました(図2).後方視的研究であるため今後の検証が必要ですが,MYC+BPDCN とMYC–BPDCN は臨床的にも異なる点が認められたことになります.免疫学的マーカーについても,BPDCN に特徴的とされるマーカーの一つである CD56 の陽性率(MYC+BPDCN:78%, MYC–BPDCN: 98%)等に違いがみられました.図3にBPDCN 118例の所見のまとめを示します.
MYC異常と薬剤感受性の関連
さらに MYC+BPDCN と MYC–BPDCN の生物学的特徴を比較するため,BPDCN 細胞株 CAL-1,PMDC05 がそれぞれ MYC+BPDCN,MYC–BPDCN であることを確定し,これらの細胞株を用いて実験を行いました.両株の遺伝子発現プロファイルを比較したところ,MYC はその差異をもたらす代表的な分子の 1 つであることが明らかになりました.また,shRNA により MYC をノックダウンしたところ CAL-1 の生存性が抑制され,MYC+BPDCN 細胞の生存に MYC が重要な役割を果たしていることが示唆されました.続いて薬剤感受性実験を行い,MYC を間接的に抑制する BET 阻害薬,オーロラキナーゼ阻害薬が PMDC05 に比しCAL-1 の増殖を強く抑制することを見出しました(図4).これらの結果から,BPDCN では,8q24 再構成,MYC 発現,および細胞形態が密に関連し,さらに治療において有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆されました.なお,PMDC05 に対しては,BCL2 阻害薬であるベネトクラックスがCAL-1同様に有効であり,BET阻害薬等の効果が比較的低い可能性のある MYC–BPDCN に対しては,同薬剤を治療に用いることができる可能性が示されました.
今後の展開
MYC 異常に基づく分類は,BPDCN の病態解明と新たな治療戦略開発に寄与するものと期待されます.明らかにした上記知見をもとに,さらに病態解明を進めるべく研究を行っております.